
書き下ろしで小説を書くということ
- 松田
- 『十字架』は実に十四年ぶりの書き下ろし作品だそうですね。長編小説を一冊書き下ろすというのは、いかがでしたか?
- 重松
- 今回、講談社の創業百周年記念企画ということで久しぶりにやったんですが、そのときに考えたのは、雑誌の連載とは違った筋肉の使い方というか、物語との付き合い方みたいなものをやってみたい、ということなんです。要するに「書き下ろしじゃないと、これはできないよね」というものをやりたいと。そうなると、懐を広く構えて、ゆったりと同じペースで進んでいくんじゃなくて、物語の中に頭から僕自身がダイブしていくような、そういうものにしたかったんです。だから、ゲラを読みながら思ったけど、あっ、これは連載ではない小説だなって、自分でわかった。
- 松田
- 確かに、骨太な感じがしますね。いい意味で枝葉が少ない。メインのテーマなり、太いストーリーなりをぐんぐん突っ走っていくという感じ。『カシオペアの丘で』のように枝葉が多いと、一つのエピソードが終わったところでちょっと一息ついて、また次に行きたいという感じなんだけど、『十字架』は次々と読み進めたくなりました。
- 重松
- 二十年という月日を描いた物語ですが、その月日をどんどん先に、わき目もふらずに進む。ギリギリのスケジュールの中で書き下ろしをやるにあたって、僕自身がわあっと入っていかないとできないと思ったので、太い物語をつくってみたいという気持ちが強くありました。針葉樹みたいな、まっすぐスーッといくものにしたかったんですね。それって、もしかしたら十字架のフォルムの持つ潔さみたいなものにも通じるかもしれなくて。
もう一つ、書き下ろしと雑誌連載の大きな違いは、物理的な話ですが、書下ろしには挿絵がないんですよ。雑誌連載だと、毎月挿絵が入るじゃないですか。そこでだんだん見えてくる人物像ってあるんです。ある質感みたいなものがね。でも書き下ろしは、最後まで挿絵なしで書く。人の顔が見えないまま進むわけだから、安易な終わり方ができなくなる。今回、挿絵なしで書いたというのが、物語にも大きく作用したと思います。
- 松田
- その分、純文学化する可能性もあるわけですね。
- 重松
- 小説雑誌の三段組みと、いきなり四十三字詰めの単行本とは違うんですよ。今回とにかく時間がなかったから、最初から四十三字詰めで打っていったのね。そういうのもいろんな面で影響していると思うんです。
ノンフィクションとフィクションの違い
- 松田
- 『十字架』はクラスメイトのいじめ自殺から始まる物語ですが、重松さんの作品を読んでいていつも思うのは、何でこんなにしんどい、辛いシチュエーションを設定するのかなということです。なぜ、こんなに辛いことばかり書こうとするんですか。
- 重松
- 物語の推進力ってたくさんあると思うんだけど、僕の好きなのは、困難な状況、きつい状況を与えられてしまった人間が、そこからどう脱していくかということ。それが、僕にとって一番太い物語の推進力になっている。僕自身が根が暗いといったらそれまでなんだけれども、そういうものを考えたいという思いが、まず最初にあるのかもしれないですね。
- 松田
- ただ、最後まで光が見えない小説というのはないですね。必ず、救いといっていいかどうかは別にして、光はありますよね。
- 重松
- それが僕にとってのフィクションを書く理由なんです。週刊誌でフリーライターをやっていると、絶望的な状況、光の見えない状況って現実にいっぱいあるわけですよ。ライターとしては、それをそのままドロドロに書いていく。
現実の重さや暗さをそのまま文章に置き換えるのだったら、最初から僕はルポルタージュを書いていると思うんですよ。その中で何か光を探し出すというのが、フィクションという形態を使う、僕にとっての一番の動機なんですよね。それをなくしちゃったら、僕、もう一回フリーライターに戻って、闇の世界を闇のまま書くと思うんですよね。事件なりシチュエーションなり、題材の出発点はライターと同じものを使っている。そこでライターとしては、もう光なしでもしょうがない。でも作家としては、そこに光ぐらい入れないとフィクションをやっている意味ないじゃん、というのが僕の考えなんです。
続きはIN★POCKET1月号をご覧ください。
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「出会い・冒険・別れ・再会」
- ――
- 2008年に講談社ノベルスから刊行された『1/2の騎士〜harujion〜』ですが、この作品の着想はいつ頃生まれたものなのですか?
- 初野
- ノベルスのお仕事をいただいたときですね……。昔から“ノベルス”というレーベルに憧れがあったんです。価格もわりと安くて手に取りやすかったし、本屋にも棚を持っている。ということは若い読者の方にも自分の本が届きやすいんじゃないかと。
- ――
- 若い読者に届けたい、というのはどういう部分なのでしょうか?
- 初野
- 「少年少女の出会い・冒険・別れ・再会」という、多感な読者層が共感しやすい、というか、わかりやすいシークエンスを、自分なりの解釈で一度書きたかったんです。仮に大人が読んだとしても、リアルで生々しい日常からふっと離れて物語の世界に没頭できる――ノベルスを書かせていただくからには、そんな小説を目指そうと思いました。
- ――
- 「あれっ!?」という感じで日常から引き込まれてしまうといえば、『1/2の騎士』も、いきなり女装癖があるオカマな男の子=最強の騎士“サファイヤ”という設定で、これはただの青春ミステリーじゃないぞ、とびっくりさせられました(笑)。
- 初野
- プロローグはインパクトありますよね。書きながらヒヤヒヤしました(笑)。もともとデビュー作『水の時計』がオスカー・ワイルドの童話『幸福の王子』をモチーフとしていて、二作目が『漆黒の王子』、それなら次も“王子”でいこう! と、敬愛する手塚治虫さんの『リボンの騎士』にたどり着いたんです。サファイヤは王位継承のために男の子のふりをしている女の子、そんなところからねじくれて“女装の男の子”が出てきました。
- ――
- 一方主人公のマドカはリーダーシップがあって、ヤクザや犯罪者にも臆せず向かっていける。逆に“男の子みたいな女の子”ですよね。
- 初野
- カッコいいですよね。でもこの小説では、サファイヤが傍にいることで、だんだん後ろ向きな依存を求めるようになります。単純な成長物語というわけじゃない。
初野ワールドの構造とは!?
- ――
- そんな二人の関係からは、初野さんの他作品にもあるように、少女同士の初恋とか、先生への恋のライバルが幼なじみの男の子と女の子だとか、性別を巡ってのちょっとしたいたずら心が見受けられますが、これは意図的なものなのですか?
- 初野
- いやいや、たまたまなんです。ただ、少年少女の性別から、すこし離れることで、対等な友情をクローズアップして描けるというのはあります。中高生が読者になるなら、自分はそこについて何かを伝えたい。
- ――
- 他方で作品の輪郭を固める大人達というのはどういう存在なのでしょうか?
- 初野
- すごく単純ですが、“格好いい大人”。若い読者にとって率先垂範の見本のようなものを目指しました。ゴリラやキリン、マドカの父などは、少年少女と対比関係になることを意識しています。自分は兼業で、昼間は営業職をしているので、大人社会のしがらみなんて書きたくもない(笑)。
- ――
- 「ファンタジック」と評される初野作品ならではの魅力は、性別設定に限らず、登場人物をキリンやゴリラと呼んだり、章立てがゲームのステージをクリアしていくためのガイドみたいに作ってあったりと、トリッキーさに満ちている部分にあるような気がします。初野さんは“理系男子”と伺っているのですが、どのようにストーリーを構成していくのですか? 脳内設計図を計算するのが得意なイメージがあります。
- 初野
- 書くときは必ずプロットを立てます。
特にミステリー色の濃い作品の場合はフローチャートをバーッと描きます。でもミステリーって話の落としどころというか、オチがあるから安心して設計図を書けます。逆にミステリー以外の小説を書けといわれたら……ハードルが高いでしょうね。
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